達成しなければならない数値目標があり、そのために何かを行なう。この構図がある限り、その行いは空虚なものであり、場合によって罪な行いとなりかねない。この世の中、そんなものだらけのような気がする。 お巡りさんのノルマを課せられた交通違反検挙、本当に市民の安全のために行なっているなら、安全週間だけでなく普段から行なえばいいし、何よりも雨の日に行なっているのを見たことがないのは不思議だ。海外への支援金が多額に必要であった湾岸戦争やイラク戦争のころ(反則金は、今は各自治体の収入となるようになったが、このときはまだ一旦国庫となっていた時期である)に異常に取り締まりが多かったのも不思議でならない。JR福知山線の脱線事故、原因の根底にあったのはJR西日本の安全第一を無視した利益優先の経営であった。耐震偽装、東横インの違法改造問題、そして最新の不二家の問題、すべて客のためを考えた経営ではなく、数値目標達成のための経営が作り上げた罪である。 同じく数値目標のために作られたために中身がないものに感じるのは、テレビ番組である。視聴率というもののために、タレントをかき集めて作られる中身のない番組だが、さらにそのタレントに中身がないから、尚一層空っぽな番組になってしまう。せめてニュース番組は真面目であって欲しいのだが、他局との数値競争のために、どんどん安物になっていく気がする。チンケなコメンテイターやキャスターのコメントを聞くたびに、聞いているこっちが恥ずかしくなるぐらいだ。こんなニュース番組を放送するくらいなら、櫻井よしこがキャスターとしてカムバックするか、今のニュースを全部やめて筑紫哲也の多事争論だけにしてくれたほうが、よっぽどいい。スポーツに関わる一人として、スポーツ番組にも物申したい。スター不在のため国民のスポーツへの関心が少ないと、タレントを絡ませて無理矢理でも視聴率を上げようとしたり、ビジュアルがいいからだとかトークが楽しいからという理由で大した成績も出していない選手を取り上げたり、かえってプロ選手の価値や質を自分達番組側が落とし、スポーツ全体の価値を下げてしまっていることに早く気付くべきだ。スポーツ総合誌も休・廃刊、発行部数の低下が起きているようだが、同じことが言えるだろう。もっと問題の本質に目を向けるべきだ。 「情熱大陸」という番組がある。TBS系列で日曜23:00から放送される番組だが、視聴率が命のテレビ界のなかで、数値よりも何か信念をもとに作られているのではと感じる番組である。ある人物を取り上げてのドキュメンタリー番組であるが、有名人だけではなく時々全く無名な人物まで登場させてくれる。自分とは違った世界で頑張っている人たちのコメントを聞いたり、生き方を見るのはいい刺激になる。ただ、さすがに興味もなく面白みのない人間が出てくるときもあり、そのときは裏の「がきの使い」を見させてもらっているが、こういったときの視聴率はおそらく低いはずである。それでも、存続し続けるこの番組、確実な裏情報を取ったわけではないが、プロデゥーサーやスポンサーに何らかの信念があって成り立っているのだろう。豪華キャストを集めたドラマ「華麗なる一族」がスタートし、見事1回目の視聴率が良かったようだ。高度成長期の物語だが、その時代に今どきのそんな洒落た髪型をした奴はいなかっただろうとキムタクの髪型を見て思う。たったこの一点だけなのだが、そんなどうでもいいかもしれないところに、私はこのドラマ制作の信念を感じられなく、残念ながら見る気にはなれない。 私が、こうやっていくら騒ごうが、世間的にはほんの少数のひねくれ者の意見でしかなく、勝手にほざいてろってなもの。結局、数値という結果が出ていれば勝ちは勝ち。政治も経済も、企業、メディア何もかも数値が出なければ誰も何も聞いてくれないのはそりゃそうだ。汗水たらして一生懸命正しいことやっていても、買った売ったのマネーゲームで世の中の経済を動かして、涼しい顔して何億も稼いでいる奴らが世間一般的には勝ちであることには間違いない。でも、こんな正直者がバカをみる世の中でいいのだろうか。互いに数値で連鎖しあうこんなおかしな世の中を変えるには、根本的な教育を変えなければと思うのだが、教育現場自体が、合格率という数値を上げるために必須科目の未履修という不正を行なっているのだから、目的のために手段を選ばない子供達が育つのは当然のような気がする。この国の世直しには、どこから手をつければいいか分からないぐらいになってしまっている。我々の税金で赤字経営が補われる国や自治体の施設は、逆にボケ〜っとしてないで少しは数値を意識してもらいたいぐらいだが、数値が先に動くこの世の中、実におかしい。 箕山クリニックも、ある程度の数値目標を立てなければ、私自身も従業員も生活していけないが、数値のために手段を選ばずといったことを行なったことは、当然だが一度もない。感心なのは、こんな世の中で、汗水たらして働きカラーがホワイトどころではない彼ら若い従業員が、とんでもない労働時間と安月給という究極のエグゼンプション(この意味が分からない方のために後述あり)にも文句一つ言わずに、我々は正しいことをしていると信念をもって箕クリを創りあげていることだ。桃栗3年柿8年というが、箕クリも3年を迎える今年の9月には立派な桃の実でもなってくれるのだろうか。2年を過ぎて、かなり土壌は肥えてきたように思える。我々を信用してついてきて下さる患者さんやジムの会員さんに支えられながら、自分を信じて「情熱大陸」を見習い信念ある「ミノ大陸」をひたすら肥やして行きたい。きっと後から勝手に数値はついてくるはずだ。 世間に溢れるインチキくさいというかインチキな自称トレーナーと会員集めだけのハードだけ立派でソフトのないジム、箕クリのように病院にジムを併設させてみるが実動していないスポーツクリニック、どこで診てもらうかどこでトレーニングするかは自由だぁ〜(犬井ヒロシ風に)だが、よ〜く見極めてください。 余談ですが、ホワイトカラーエグゼンプションが分からない方のために、簡潔に解説しておきましょう。一定の年収以上のホワイトカラー(事務系職)労働者に、時間外労働による残業手当がつかないようにする(エグゼンプション)法案。これによって、無駄な労働時間を費やすことなく仕事の効率があがるという意見とかえって長時間労働の促進につながるとの意見があり、導入に対して労使が対立している。結局、与党が参院選への影響を懸念し、通常国会への提出は見送られた。はっきり言って、我々医者とくに勤務医はとっくの昔からエグゼンプションである。毎日早朝から夜遅くまで働き、急患で夜中も休日も呼び出されるということを、時間外手当も貰わずに患者のために行ってきている。過酷労働と責任という重圧で脳卒中をおこそうが死んでしまおうが、医者の不養生などと揶揄されるだけ。必ずしもいい医者ばかりではないのは確かだし、我々医者にも問題はあるだろうが、今やお医者様などと呼ばれ(そう呼んでいただきたいとは全く思わないが)尊敬されるようなことは無くなり、メディアや患者から文句を言われるような時代になってしまった。やっぱ、おかしな世の中だ。
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