「スポーツビジネス」 2005/12/10
先日、Dumontという雑誌の取材を受けた。書店に並ぶ雑誌ではなく無料配布誌、しかも高所得者向けらしいのだが、スポーツビジネスということについての取材であった。時々雑誌などの取材を受けることがあるが、取材をしてくださる方皆さんがホームページで下調べを当然してこられる。しかし、多くの方が箕山クリニック(以下、箕クリ)のことを上辺しか理解してこられないため、答える私の方もおもしろくなくいい加減になる。スポーツ選手がインタビューされても、聞き手がそのスポーツや選手のことについて勉強していないと、聞く内容がくだらなく、答える選手の方もそれに応じた適当なことしか答えないのと同じである。しかし、今回のDumontの方は、箕クリのシステムをきちんと把握して下っていたうえ、コラムも全部読んでおられたのか私の思想もよく理解してくださっており、インタビューで実に快く様々なことを語ることが出来た。そのなかで、やはりテーマであるスポーツビジネスに関して問われた。つまり、箕クリという先進的なスポーツ医療をビジネスとしてどういった展望をもっているのかということだ。上述したように聞き手のライターの方は、箕クリと私自身のことを勉強して来てくれていたので、当然次のような答えが返ってくるのは予想されていたはずだと思う。きっぱりと私はビジネスとして箕クリを造ったのではないし、さらにビジネスとして発展させるつもりはないと申し上げた。個人によって言語の捉え方は異なるだろうが、ビジネスという言葉は私の中では、お金を生むための商売という響きがある。私がスポーツクリニックを造った理由は、それがお金を生むからでなく、また最近トレーニングブームや健康ブームであるからでもない。日本において不十分であると考えられるスポーツ選手が最適な医療を受ける環境を作りたかったからである。スポーツドクターとして、その道のプロとして、そのような仕事を追求していったとき、たまたまお金が生まれればラッキーなだけである。つまり、お金は目的を追い求めていくことでの結果であればよく、お金という結果を生むために方法を選んでいるのではないのだ。このようなきれいごとを言いつつも、従業員と自分自身の生活は守らなければならなく、スポーツドクターのプロでありながら経営者でもある私は、悪戦苦闘の日々なのである。幸い従業員のなかに一人として「お金を生むために・・・」と言う者はなく、「どうすれば患者さんやクライアントに対していいものを提供していけるか」と皆が考えていることが救いである。
「世界一の中小企業」といわれる樹研工業(代表取締役社長 松浦元男)をご存知だろうか。「小さなトップ企業」とも言われるが、大企業の下請け企業として、商品の部品となる小さなのもの最小のものをつくりあげる企業である。我々の普段使っている物の多くに、この企業の部品が使われている。この企業を有名にしたのは、100万分の1グラムの歯車を作ることができるということだが、最近さらにすごいのは、ナノ(1ナノ=1000分の1ミクロン。1ミクロン=1000分の1ミリ。)の単位で金属を削ることが出来るらしい。小さい企業でありながら、このように常に最高の技術を開発し維持し続けているのだ。松浦氏いわく、小さな企業が勝つには、「価格競争」「規模の拡大競争」「品揃え競争」を行ってはならない、中小企業が勝つには重要な三つの戦略があるという。それは、「新技術の開発」「管理技術の定着(つまり品質管理)」「強い財務体質」であると。そして、これらを実践していくのは社員であり経営者である。つまり人間の問題であるとのことだ。箕クリも、それぞれが常に勉学に励み技術・能力を常に研いていること、それぞれが忙しい中でいかに質を保つかを考えていることからすると、この三つの戦略のうちの二つに重なる部分があり安心するのだが、三つ目が一番心配である(笑)。箕クリに来られる皆さんにも節約にご協力いただき、これから寒い冬も暖房なしで治療を受けていただこうか(笑)。
話しが逸れたが、スポーツビジネスということに話を戻そう。スポーツビジネスについて語るとすれば、私はスポーツをビジネス化したいのではなく、格好良く言わせてもらうと、逆にビジネス化されていくスポーツ界で、選手を守りたいということだろうか。企業にとって有名選手は立派な広告塔であり、お金を生んでくれる。テレビのスポーツ中継も、視聴率をとれば大きなスポンサーがつくため、人気スポーツしか放送しないうえ、最近やたらと変な演出が目立つ。所詮、お金のためにスポーツを好んでいるだけで、スポーツやプロ選手を愛しているからサポートしているわけではない。華やかのうちはいいが、ひとたび選手の成績が落ちたり人気がなくなったり、またケガでもしてしまったときには、言葉は悪いが選手は使い捨てのように扱われる。こんなことで、当然日本でスポーツが文化として根付くことはないだろう。私は一時期モータースポーツ行っていて、レースドクターとしてプロのレースの救急サポートを行っていたことがあるが、世界最高峰のレースであるF1においても、企業の持続性がないのは歴然としている。日本の技術で一気にチャンピオンを取るまで駆け上がるが、そのあとが続かない。一旦撤退し、また景気がよくなれば戻って、技術と金で勝ち上がる。経済的に苦しいときもスポーツを愛し続ける真剣さがないから、欧米からはいつまでたってもイエローの金遊びにしか見られないという現実なのだ。若手ホープが海外に出て行く、スター選手が出てこない、選手にプロ意識がなくファンサービスが足りない、こんなことを言う前に、もっとサポートする側が本気でスポーツを愛しているかどうかである。先日、あるマイナースポーツの決勝をテレビ生中継で観た。スポンサーも何もない放送局での中継であった。視聴率稼ぎのための、演出も何もなかったが、ただ選手の一生懸命さとそのスポーツのすばらしさが純粋にそのまま伝わり、とても惹かれた。そして、勝手な想像かもしれないが、マイナースポーツを少しでも人気のあるスポーツにしようと、選手がプレーで一生懸命なだけでなく、見た目にも気をつかい、アクセサリーをつけ、髪をきれいに束ね、さらに眉の形をきれいに整えて、華やかに見せようとしている努力にちょっと胸が熱くなった。実業団として、この選手とチームを抱えている大企業さん、先日の新聞で大赤字と出ていたが、がんばってチームを存続してください。本当に、このスポーツをマイナーであろうと愛しているのだろうと感心する。私も、どのような競技であろうと一生懸命に選手がケガで潰されていかないように、医療面でサポートし続けたい。
スポーツ選手のサポートだけでなく、一般の患者もお願いしますよと思われた方、心配ご無用です。元レーサーとして、またちょっとF1で例えてみますと、F1は車の企業がそれぞれの技術を競い合うところですが、そこで活かされた技術は一般車に還元されています。私も、プロとして失敗できないトッププロへのケアのなかから生み出した技術・能力を、きちんと一般の方々に還元していますので。

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