「第10回スポーツ外傷講義 : 擦過創」 2005/08/21
スポーツを行っていると、擦り傷は耐えないことでしょう。たかが擦り傷とはいえ、ウェアに擦れて痛かったり、擦れなくても動きのなかで痛かったりし、選手にとっては1日でも早く治したいものだと思います。また、皮膚が欠損するほどの傷だと治るまでに時間がかかり、困る選手も多いと思います。今回は、最近主流になりつつある創傷療法についてですが、あくまで一般的な擦過創に対しての治療法であり、創の状態によっては治療法が異なってきますし、縫合するような切傷とは別であることを理解したうえで参考にしてください。

皮膚の解剖
表層より、1.表皮(毛孔のある部分) 2.真皮(毛のう、汗腺が存在する部分) 3.皮下脂肪

創傷はどのようにして治癒する?
表皮〜真皮までの創:@創部の毛孔から表皮細胞が遊走するのとA創周囲の正常皮膚からも表皮細胞が創部に遊走することによって、創部に皮膚が再生されていく。
真皮が失われた創:@創の部分に、肉芽(にくげ)といって毛細血管に富んだ肉のような赤い組織が覆う。A肉芽の表面に周囲の正常皮膚から表皮細胞が遊走していきB最終的には肉芽が固まり欠損部に皮膚様の組織が形成される。

創傷治癒を早めるポイントは?
上記で述べた治癒過程から、大事なことは表皮細胞が遊走しやすい状況を作ることと、肉芽を壊死させないことである。また、創傷を治すために集まってくる細胞成長因子を保持することである。
そのために、創を湿潤した環境にしておくことが大事。

創の治療法
@創面、及び創周囲を大量の水道水で洗浄する。
泥などの異物やケガで死んでしまった不必要な組織が感染のもとになるため、これらをきれいに洗い流すことが大事である。
A湿潤療法の被覆材で創を密封する。
最近では、薬局にも湿潤療法のための創傷被覆材としてフィルムやコロイド、ジェルなどの素材のものが置かれています。
B汚れなければそのままで、創の状態によりますが約1〜2週で治癒。

消毒は必要か?
前述のように、創感染のもととなる主なものは異物や壊死組織であり、細菌単独では起きない。
創から除去すべきは細菌ではない。
消毒で創面を無菌に保つことは無理。
消毒液の殺菌力よりも組織障害性のデメリットのほうが大きい。
以上より、消毒は必要ないということになります。


戻る