「第8回スポーツ外傷講義 : 前十字靭帯損傷の予防」 2005/05/26
今回は、箕山クリニックのアスレティックトレーナー鈴木による外傷講義です。


思いを起こせば(まだそんなに期間は経っていませんが)スポーツ外傷講義の記念すべき第1回目のテーマは前十字靭帯損傷でした。という訳でトレーナー担当コラムの初回は前十字靭帯損傷の予防について書いてみたいと思います。
 前十字靭帯損傷の原因を分類すると、コンタクト型、ノンコンタクト型に分けられます。自分ではどうしようもなかったコンタクトプレーによるものもありますが、ノンコンタクトでの受傷が45%ほどの割合を占めるという報告があり、予防の余地は十分にあると考えられます。ドクターが紹介してくれたようにこの靭帯の損傷と太ももの裏の筋力は密接な関わりがあり、太ももの裏の筋力をつけておくことは非常に大切なことです。しかしいくら太ももの裏の筋力があってもその部位の筋肉が使いづらい状況下に置かれていたら予防としてはあまり効果を発揮しません。ノンコンタクトの受傷状況を調査してみると、ニーイントゥーアウト(膝が内側を向き、つま先が外を向いた状態)や体幹が直立位の状態での受傷が多いようです。つまりはこの状態にならないようにトレーニングをしていくと予防のプログラムが出来上がるわけです。
ニーイントゥーアウトや体幹が直立位になりやすい要因はいくつかあります。足首や太ももの後ろの筋肉の硬さ、筋力の弱さなどが挙げられます。女性は男性に比べて筋力が弱く、体の形態的特徴・女性ホルモンの影響などで損傷のリスクは男性に比べて高いのでより注意が必要です。スクワットなどの誤ったトレーニングフォームも上記のような受傷機転に導いてしまいます。その他にもたくさんの要因がありますが、以下にいくつか予防としてやっておきたいことを挙げてみましょう。
まず、足首や太ももの後ろの筋肉の柔軟性を高めておくことが必要です。足首の柔軟性については一般的なふくらはぎのストレッチングを行ないますが、つま先が外を向かないように行ないます。筋力強化と重心のコントロールの練習としてはスクワットを行ないますが、骨盤の前傾をしっかり保ってつま先の真上に膝・肩がくるくらいにし、つま先と膝は共に正面を向くように行ないます。
海外の学会では予防のプログラムとしていくつかの方法が提案されています。内容としては固有受容器を刺激するトレーニング(平たく言えばバランスのトレーニング)、プライオメトリックトレーニング(主にジャンプ動作のトレーニング)を進めていくなどです。ジャンプの着地時に膝を深く曲げて着地する、減速時には3歩くらいのステップを踏んで減速するなどの動作を反復して体に染み込ませたりするプログラムも紹介されています。詳しく知りたい方はAAOS発刊のPrevention of Noncontact ACL Injuriesをご参照ください。
今回は予防の概要について書きましたが、限られた紙面上で全てを的確に表現するのは不可能です。また予防できるケガは前十字靭帯だけでなく他にも数限りなくあります。それぞれのケガの発生要因分析していけば予防の方法は見えてきます。トレーニングの現場では“似て非なるもの”がよく見受けられます。上記のスクワットもその一つです。“何だスクワットか?”そう思うかもしれませんが、実際にはこの基本的なトレーニングがしっかりできない人は思いのほか多くいます。予防のつもりで行なっているトレーニングが逆にケガを招く・・・。そのようなことが皆さんに起こらないよう、施設においてもグランドやコートなどの現場においても、『アスレティック』トレーナーのいる環境でトレーニングを進めていくことをお勧めします。

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