「基本を大切に」 2005/04/16
先日アメリカで、15年間にわたって植物状態にあったテリー・シャイボさんが亡くなった。フロリダ州裁判所によって延命中止、つまり尊厳死が認められた数日後であった。裁判所の決定後、ブッシュ大統領がそれに反する発言を行い、人の死に対して政治が司法に介入するということがおきた。生か死かの問題が、倫理観ということよりも政治の人気取りに利用されていることに非常に不快な思いをした。(ブッシュ政権は、宗教右派に支えられているようなものなので、尊厳死に反対する彼らへのリップサービスである。)「死」に関することといえば、日本においても臓器移植のために「脳死は死か」の論議が再燃している。今回「生か死か」について述べてみようとも思ったが、医師独特の見解になってしまう怖れがあったり、宗教による見解の違いもあったりし、非常に難しい問題であると思うので、このことについて深く語るのはやはりやめておこう。ただ、生か死か議論するときに忘れてはならないと思うのは、「死」について考えるより、「生きる」「生きている」とは何か?を考えることを基本にして欲しいと思う。そこから、何をもってして「死」というのか分かるような気がする。

前回コラム「物事の根幹を」に似たようなことだが、何を行うにも基本は大事にしたい。サッカー日本代表が、イランのアウェー戦で負けた翌日、「中田以外どいつもこいつも相手の当たりに負けて転びまくりやがって!なってない」と文句を言っていたら、ちょうど中田英寿選手のホームページにも「サッカーは、1対1で勝つことが基本の基本。システムがどうこうより、すべての敗因はそこにある。」というような趣旨のことを書いていた。彼のプレーで、ジダンやロナウジーニョのように特別なことを見たことはないが、何故彼はすごいのか。それは、相手の当たりに負けない、確実にキープする、正確にパスを出す、味方選手の状況をlook around、etc すべて基本中の基本をきちんとこなしている中で、そこからひらめきのプレーが出るからである。基本ができていなければ、どんなプレーも際立たないのである。

近年、世界に誇れた日本人の学力低下が目立ち、「ゆとり教育」の見直しが行われている。私に言わせれば、「ゆとり教育」が始まった時点で学力が低下していくのは分かっていたことで、やっと今頃になって見直されるのかと思うとバカバカしい。田原総一朗氏によれば、もともと臨時教育審議会が、教育の「自由化」を目指したのだが、「自由化」になると文部省や日教組の既得権益が奪われることとなる。そのため、文部省と日教組が激しく反対し、いつのまにか「自由化」が「個性化」という生徒の個性を伸ばすための「ゆとり教育」にすり替わったのだという。詰め込みや画一教育は悪だとして始まった「ゆとり教育」だが、詰め込み教育の何が悪いのだろうか。個性を伸ばそうといったところで、余程の子供ではない限り、小さい頃からきちんとしたアイデンティティーをもって、自ら個性を伸ばすことのできる子がいるとは思えない。詰め込みで、基本を何度も何度も叩き込まなければ、その先のことが出来るわけがないのである。詰め込み教育を受けてきた世代の私は、その当時非常に嫌であったが、何度も同じ事を行ってきたことが基礎となって、今役に立っていると感じている。よく「方程式など大人になって使わないから、そんなものは勉強しなくていい」など、くだらないことを言う人がいるが、将来の道がきちんと定まらないうちからそんなことを言うべきではないのだ。将来、どんな道にでも歩むことが出来るように、子供のうちはきちんとすべての基礎を学ばなければならないのである。子供に「どうして勉強しなければならないの」と聞かれたら、「将来どんな仕事にでも対応できるように、今は基本・基礎をきちんとしておかなければならない」と言えばいい。ニートNEET(Not in Employment Education or Training)が増加していることの原因の一つに、「ゆとり教育」も含まれることを認識し、反省すべきである。

これからの季節、ダイエットに関するエクササイズやトレーニング、さらにはあやしいダイエット食品がいろんな雑誌で紹介され始めるが、変な流行に流されず、ダイエットの基本は何か考えて欲しい。我々のコンセプトは商売目的ではないので、マーケティングに欠かせない真新しい(が、反面あやしい)ことは一切行わないが、基本はきちんとしている。その基本的で科学的なことから、キラーパスを生んでいるのだ。トレーナーを目指す若人、華やかさだけにとらわれて、キラーパスやフェイントだけの練習をしていてはダメですよ。きちんと基本の反復練習をしよう。私の、基礎知識のもととなっている学生の頃の内科の本や、医師になってから何度も読んだ診察手技の本、解剖の本、そして英語の辞書etcがボロボロなのをぜひお見せしたい。一部は、飼い犬にかじられてボロボロになっているという噂もあるが(笑)。

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