前回のコラムで予告したように、今回は混合診療についてです。つい先日15日に混合診療解禁に対しYES or NOのけりがついた。包括的解禁は見送り、例外的に併用を認める現行の特定療養費制度を再編・拡充することとなった。といっても医療関係者でも何のことかよく分からない人がいるのに、一般の方には理解不能に等しいだろう。ということで、まずは混合診療って何なのかを前回のコラムをもとに説明いたしましょう。 混合診療とは保険診療と自由診療(厚生労働省が保険適応と認めていない美容目的などの治療で、病院・診療所が独自に診療費を決めることが出来る。)を混ぜ合わせた診療行為を言います。本来は一治療に対し、保険診療を行うのであれば自由診療は一切行ってはいけないとなっています。逆に、自由診療を行っている医療機関も一治療に対し保険診療を同時に行うことは一切出来ず、一回の治療に対するすべての診療行為が自費で無ければなりません。ただ、一部保険診療と自由診療の混在が認められているものがあって、予防接種や健康診断などがそれに当たります。また、高度先進医療や入院で特別病室を希望した際などのベッド代などは特定療養費として認められており、こちらも自費徴収が可能となっています。今回はこの特定療養費として許可される範囲を広くしていきましょうという結果に落ち着いたわけです。
では、なぜ政府は混合診療を認める方向に動いたのでしょうか。一つは、国が保険として面倒見切れない医療費分を民間の保険会社(日本生命や第一生命etc)で賄ってもらい、民間保険の市場を広げることによる経済の活性化。もう一つは、税金の無駄遣いがたたって苦しいお国の懐事情を緩和するために、国が面倒見る医療費を削減したかったということである。さらに政府は、保険がきく診療費の上限を疾患ごとに定めるというイギリスの国民医療方式(前回コラム参照)を導入して、さらにGDP(国内総生産)における医療費の割合を抑えようとしていたのである。つまり政府の狙いは、日本の医療制度は残しつつ、アメリカ方式とイギリス方式(前回コラム参照)を混ぜ合わせた方式を創ろうとしていたのだ。
これに対して、日本医師会などをはじめ医師会の息がかかっている議員たちも大反対というのが今回の騒動で、特定療養費を拡大するということでまとまった今回の結果は医師会の勝利といっていいだろう。医師会の政治に対する力も最近は衰えてきたもんだと思っていたが、何にも分かってないくせに一緒に反対するアホ議員を動かしてこの結果に持ち込んだとは大したもんだと思った。混合診療には良いところも悪いところもあり、また診療科によって見解は違ってくるところもあって、医師会は反対しようが陰で混合診療賛成の医師も居たはずである。では、なぜ医師会は反対していていたのだろう。
その前に、皆さんはきっと医師会って何?というのが先ではないでしょうか?あまり難しい話をしては皆さんに分かりやすくお伝えしているこのコラムの意味が無くなってしまうので、医師会を簡単に言ってしまえば開業医同士の団体ということになります。ですので、日本全国の医師全員が加入しなければならない会でもなく、勤務医などは医師会には入っていないどころか全く興味なしなのです。かといって、開業する医師が必ず入らなければならない会でもなく、日本特有のアイデンティティーのない皆が入っているから入っておかなければみたいなものなのである。医学部卒業したての研修医が、皆が医局に入るから入っておこうと同じである。しかしながら、医師会も意味の無い団体というわけではなく、各地域でそれぞれ皆さんの健康向上に努めており、学校健診や夜間診療などを当番で行っている真面目な団体であるとフォローしておきましょう。
さて、話を戻して何故医師会が混合診療反対であったのかですが、医師会が開業医の団体であるということがポイントです。つまり、医業は営利目的であってはならないと言いつつ、何とかして診療報酬をせしめようと常に考えているのが開業医であって(皆さんが思っているほど病院・診療所経営って楽ではないのです)、患者さんへの窓口請求額は全診療費の3割負担のため一見高額ではないが、支払基金へ請求する残り7割をいかに多く取るかを日々考えているのである。実は、開業医があの手この手を考えそれを行ってきたために、国はもうこれ以上GDPの医療費を上げれないという現状なのである。なので、国は医療費上限の決まったイギリスの医療方式も取り入れたいのだが、それでは金儲けの診療報酬請求が出来ないと反対するのが医師会なのである。GDPにおける医療費は先進国の中で現在日本は下から2番目、最悪の医療制度を創ってしまったと叫んでいる最下位イギリスがやばいと医療費を上げて頑張っているため、いずれ日本が最下位になると言われている。このことを指摘して、日本の医療費は他の先進国と比較して非常に少なく、今以上に減らしてはならないという人もいるが、実は医療教育にかける金額が日本は他の国と比べて格段に安いためにGDPにおける医療費が少なく見えるだけなのである。よって、実際は病院・診療所からお国へ診療報酬として請求される金額はおそらく他国とさほど変わらないはずなのだ。ここでいう教育というのは医学生だけでなく、研修医など一番教育を大事にしなければならない医師達への教育も含まれているが、研修医はおろか医師達へお金はかけられておらず、研修医などは安月給で馬車馬のようにこき使われるだけなのである。前回のコラムでアメリカには国が面倒見る医療制度はないといったが、なぜかGDPの医療費は第1位なのである。これは、実はアメリカには貧困層や高齢者に対しては国が面倒を見る医療制度があるのと、医学教育に国が莫大なお金をかけているからなのである。だからアメリカでは医師1年目から高額給料であり、さらに資格を得て上にいけばもっと給料が上がるといったような教育システムがきちんとしているうえ、医師のステータスも確保されているのである。日本の医師がアメリカと違い、勤務医として上になっても給料安くてやってらんない、さっさと開業してしまおうという感覚になるのがお分かりだろうか。
ここまでの話しだと、別に混合診療になっても保険診療の範囲は残されているので、診療報酬請求に困りはしないだろうと思うでしょうが、もし保険外の部分が認められると様々な医療の参入が予想され、医療サービスが問われ出すことになるのが医師会にとっては問題なのです。今まで近辺に同じ診療科同士を開業させないようにコントロールし競争を避け、病気になってもうちの診療所しか掛かるところはないでしょと悠然としていたところに、患者さんのニーズを真剣に考えなければならない状況ができてしまうと、サービスということを考えたことの無い世間知らずのお医者さんには大変で、反対したいのは当たり前なのです。新聞などに書かれていた表向きの反対理由の裏には、こういった理由もあるのです。でも、皆さんの医者に対する信頼をなくさないためにも、本当に医師会はきちんと国民全員の健康を考えており、表理由が8割、裏理由は2割ぐらいと言っておきましょう。そして、こういった営利目的でないちゃんとした開業医の見分け方を皆さんにお教えするとすれば、診療明細書を受診された際に請求されてみるのは一つの手段だと思います。ただ、コンピューターを入れていない診療所もあり、明細書を出さないところが一概に問題ありとは言えませんが、いつも診療所に行かれた際にレシートもなく何を行ってそういう金額になるのか分からないですよね。もしかすると、診療で行っていないことも請求されているかもしれませんよ。
最後に、私自身は混合診療に賛成であったか反対であったかと聞かれると、無責任な答えになりますが、別にどっちでも良かったというのが答えです。患者さんの立場で考えた場合、得をする人もあれば得をしない人もあり、正確な答えはないでしょう。開業医としての自分自身の立場から考えても、私自身は患者さんの求めることを行っているだけであり、医療制度がどうなろうと箕山クリニックが赤字になろうと職員には申し訳ないが関係ないのである。ただ、一生懸命診療を行って、不当な診療報酬請求をしているわけではないのに、診療報酬請求を削ることで精一杯な支払基金さんにはもっと現場の医療を勉強してもらいたいとは思いますが・・・。そんなことよりも、今回述べたような腐った日本の医療教育という根幹からたたき直したいと、出来もしないデカイことを思う今日この頃である。
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