「第1回スポーツ外傷講義 : 膝前十字靭帯損傷」 2004/11/01
コラム欄で定期的に、一般の方にも分かりやすくスポーツ外傷講義を掲載していくことにしました。
初回は、膝前十字靭帯損傷についてです。

膝前十字靭帯とは:
膝関節内の靭帯で、脛骨(スネの骨)の前方から大腿骨(フトモモの骨)の後方へ斜めに走行しています。脛骨が前方へズレたり、膝が内側へ捻るのを抑えています。

どのような状態で切れてしまうのか:
相手プレーヤーと接触して膝に外力が直接加わったときや、ジャンプからの着地を失敗して捻ったり、方向転換で踏ん張った際に捻ったりすることにより受傷します。
(例)*ラグビーで外側からタックルを受けた。
   *バスケットのジャンプ後着地に失敗して捻った。
   *サッカー中相手プレーヤーをかわすのにステップを踏んだ瞬間ガクッとなった。

切れるとどのような症状ですか:
受傷瞬間よりプレーは続行できないぐらい痛いです。なかにはブチッと音がしたという選手もいます。この靭帯は膝が伸びきるときや深く曲げていくときに緊張しますので、その角度の範囲で動かすと非常に痛く、受傷した選手は膝を伸ばしたり曲げたりしようとしません。また多くは、膝が3時間以内に腫れてきます。この腫れは、靭帯が切れたことにより出血し、その血が膝の中に溜まるためです。前十字靭帯損傷の約80%は出血で腫れると言われています(膝をケガしてすぐ腫れた方の約80%が、前十字靭帯損傷であるということではないのでご注意)。

現場での対処とその後は:
受傷時の処置は、ほとんどのケガに共通していることですが、それ以上ケガの度合いをひどくさせないために、RICEを行います。Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)ですね。安静の助けとして、もしあれば副木などでの固定をできるとベターですが、固定角度は少し膝を曲げた位置が選手は楽です。
現場での処置を行った後は、整形外科のなかでもスポーツ外傷を専門に診ることができる病院・診療所に行くことお勧めいたします。

固定や放置しておくことで良くなりますか:
この靭帯は関節内の靭帯ですので、固定などで再び靭帯の張り具合が元通りに戻ることはありません。緩みが残り、ジャンプやステップの動作を必要とするスポーツでは、復帰しても再び膝を捻ってしまうことが起きます。こういうことを繰り返すうちに、関節面の軟骨や半月板(膝関節内の内・外側ともあるパッキンのようなもので三日月形をしている。クッションの役割と膝を安定させる役割を持つ。)に傷が入ってしまいます。

治療法は:
リハビリでは、膝周りの神経を再教育し筋肉の反応性を回復させ、さらには下腿が前方へ引き出されたり膝が捻れたりしないような動き作り、また再受傷予防のための筋力をつけます。
手術では、緩んでしまった靭帯を縫い直すことはせず、自らの身体の一部から代わりになるものを持ってきて入れ替えることを行います。よく使用されているのは、@薄筋と半腱様筋という筋の腱か、A膝蓋靭帯です。薄筋は大腿を内転させるための筋肉群の一部で半腱様筋は膝を曲げるための筋肉群の一部です。いずれも、膝の直ぐ下の内側にくっついており、その部分より採取して使用します。膝蓋靭帯は膝蓋骨に続く腱です。このうち1/3程度を採取し使用します。@Aいずれもメリット・デメリットがあります。
先々のことを考えると手術をしたほうが良いと考えられますが、前十字靭帯が緩くても行えるスポーツ(自転車競技、ランニングetc)もあったり、日常生活も注意していれば問題のないことも多いので、スポーツドクターと術後のことや自分の状況なども含め、きちんと相談して治療法を選択するのが良いでしょう。

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