2012年03月19日 アーカイブ
箕山スポーツ医学塾(File №7):FAI(femoroacetabular impingement 大腿骨寛骨臼インピジメント)
Santa Monica Orthopaedic and Sports Medicine Group Hip and Pelvis Institute http://www.smoghip.com/patienteducation/fai.htmlより引用
【箕山クリニック:doctor】
私は、いま世間で広く言われているFAI(femoroacetabular impingement 大腿骨寛骨臼インピジメント)の概念にどうしても納得ができません。またそんな医師、PT(理学療法士)、AT(アスレティックトレーナー)は非常に多いのではないででしょうか?
Pincer(impingement)もCAM(impingement)も、多くの医師が考えているようなimpingementの仕方ではないのではないかと考えています。
まずimpingementをおこすほどの股関節を深く屈曲して行うスポーツはありません。もし深く股関節を屈曲することがあったとしても、骨性変化をきたすほどの負荷はかからないと思いますし、深く屈曲をしないスポーツでもFAIは診られます。それに衝突性のimpingementだとすればmirror lesion(骨棘のある関節面の対側関節面に骨棘により削られた病変ができること)がみられない事もおかしいと考えます。
2009年のBJSM(British Journal of Sports Medicine)にてAnterior impingement testは、FAIに対して特異性はないとあります。腸腰筋などの股関節前面の軟部組織にstiffness(硬さ)が生じていれば、股関節を深く屈曲した際に、それらが詰まり、症状が誘発されるのは、容易に想像できると思います。
関節唇のimpingementによる症状は、荷重時のsharp pain(鋭痛)や、関節内水腫によるdull pain(鈍痛)であり、しかも炎症期のみしか、その症状は出ません。またこの症状が出ていているときは、股関節を深く屈曲しなくても、90°屈曲位での内旋で疼痛が誘発されます。
これらの事からFAIは、impingementはimpingementでも、femoral head(大腿骨骨頭)が前方に移動し、擦れることにより生じるshearing(剪断力)によるimpingementではないだろうか。ちょうど投球肩の前方labrum damage(関節唇損傷)を想像していただくとよいと思う。前方へのshearingである証拠に、股関節のOA(osteoarthritis変形性関節症)の進行は前方のjoint spaceが狭くなる事で始まります。
femoral headのshearingのmechanism大きく2 typeに分類されると考えられます。
① 5/S hyper-lordosisによる骨盤前傾
臼蓋前面が、femoral headに覆いかぶさるようになり、impingementを起こしやすくなるうえに、腸腰筋は伸張されていて、そこへ股関節の外旋力が加わり前方へ移動しようとします。そこで前面のブロックとでshearingが生じる。 おそらくlate stance~toe-off phaseでのimpingementと考えています。
②swaybackタイプの骨盤後傾
臼蓋前面が、後方に移動するので、相対的にfemoral headが前方移動となります。swaybackでは腸腰筋が短縮しているので、前面のブロック形成され、そこにfemoral headの前方移動がおこることによって、shearingが生じます。おそらくheel contact~early stance phaseでのimpingementと考えています。
PincerとCAMの発生機序の違いは、Pincerは、腸腰筋が短縮によって硬くなっている場合に、femoral headが前方移動しきれないためにおこります。CAMは、腸腰筋のstiffnessがない場合、femoral headに遊びがあり、関節包や腸骨大腿靭帯の牽引負荷による反応性骨増殖によりおこります。
前述のように、関節唇のimpingementによる症状は、滑膜炎が起きているときや、関節内水腫が発生しているときだけである。ということは、肩関節の関節唇損傷や膝関節の半月板損傷と同様に、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)内服で炎症期の疼痛は改善します。あとはstiffnessとstiffnessの原因を改善していくように、リハビリを行っていくことが重要です。手術をしたところで、前面stiffnessが改善されていなければ、再発すると考えます。
手術は、OA進行予防になるか? → NOだと思う。
手術によって、前面の軟部組織stiffnessによる症状は改善するか? → NO
肩関節の関節唇損傷は手術したほうが経過良好か? → 最近は保存的治療(リハビリ)が主流となっている。
膝関節の半月板損傷は切除しないといけないものか? → 必ずしもそうではない。
これらの事からFAIも同様に、手術の必要性は比較的少ないのではないでしょうか?
姿勢不良やdynamic alignmentを改善しなければ、股関節前面の軟部組織にtightness・stiffnessが生じます。
原因を改善しなければ、上の図のように悪循環から抜けだせないということになります。
FAIの症例では、腰椎下位が過前弯で5/Sの不安定性、腸腰筋tightnessがある、またはswaybackで5/Sの不安定性、ハムストリングのtightness、腸腰筋tightness(短縮)など、様々なパターンが診られ、FAIのある症例の多くは、腰痛もかかえています。
肩関節の機能改善を行うとき、肩甲帯の安定性を作らなければ、回旋筋腱板の機能やGH(肩甲上腕)リズムも改善しないのと同様、FAIもLumbo-Pelvic(腰椎-骨盤)のスタビリティーを改善しなければ、Femoro-Acetabular(大腿-寛骨臼)の求心性が得られません。FAIに限らず、groin(鼠径部)に疼痛を出す疾患の多くはコアスタビリティーと連動させて考える必要があると私は考えています。
写真は、コアスタビリティーと股関節のモビリティー(とくにgroin painに関係する部位)を改善させるエクササイズを一部紹介。
【投稿コメント:アスレティックトレーナー(某Jリーグチーム)】
股関節痛を訴える選手にたいして、股関節屈曲の評価をしています。エンドフィールを感じながらアプローチを変えていますが、腸腰筋を促通することでインピンジが解消する場合や骨盤の前傾位に誘導することで改善するケースがあります。TFL(大腿筋膜腸筋)やハムストリングにtightnessがある場合もあります。原因としてはコアの機能低下やマルアライメント、また関節が緩い場合が多い気がします。股関節において求心位を保てない。育成年代をみているので思うのですが、原因の一つに生活様式の変化(遊ぶ時間の低下、洋式スタイルなどなど)が影響してるのではないかと感じます。
【投稿コメント:アスレティックトレーナー】
先生のFAIに対するお考え…すごくわかります。私も力学解析という手法を使って、股関節周囲のトラブルの発生機序を探っておりますが、やはりFAIの発生機序に疑問があります。
発生要因のひとつとして小児期からのスポーツの継続とあります。先天的な構造の特徴からではなく、スポーツ活動と長期間継続という要因から、後天的に形成されるのものであれば、先生のおっしゃるように、深屈曲の要因は排除されてもいいと思います。確かに見た目は、股関節の角度がかなり深く屈曲されているように見えますが、骨盤と大腿骨の相対的角度でみると、impingementが起こるような深い角度ではないと思います。impingementが起こるような深い角度は、パワーポジションではないはずですから、あの肢位は一般的にとらないはずです。私も先生のおっしゃるように、骨盤の傾斜角度やstiffnessなどが起因となって、長期間継続的に何らかの力の集中(sharing Force等)などによって、反応性骨増殖によりできたものと考える方が、あの場所にできる理由として理解できます。CAM typeなどは、ネック長とか頚体角などの関連もあるかもしれないと考えております。
【箕山クリニック:doctor】
CAM typeは、確かにネックが長い、外反股にみられるように感じます。混合型はそうはいきませんが。ちなみに、股関節とは関係なく、肩の話で、上腕骨頭の後捻角に健患差があるというデータが何年か前に出ていましたが、これも骨端線への負荷(little leager's shoulderなど)による後天的なものなんでしょうね。
【投稿コメント:アスレティックトレーナー】
姿勢(骨盤と大腿骨の相対角度)とネックの長さを変えて、応力解析してみて、ネックのところに応力集中が認められればとりあえず仮説は立証できるかもしれませんね。ただ応力集中と病態の因果関係が立証できないといけませんね。
【箕山クリニック:PT】
骨盤後傾なsway backは腸腰筋の伸張ストレスによるstiffnessはあってもtightnessはあまり見かけない印象ですが。
【箕山クリニック:doctor】
swaybackも2パターンあって、スポーツやっている人は、5/Sの代償による過伸展でのstiffness、そうでない人は短縮tightnessと思います。
【投稿コメントM’s AT project Athletic Trainer】
FAI様という診断で来院した方はたくさん診た事はありませんが、体幹のスタビリティと腸腰筋の機能改善で症状が緩和していきました。この症例ではsway backはなく、最初に骨盤後傾方向に誘導したのですがあまり改善は見られず、最終的には骨盤を前傾方向に誘導したら改善した症例がありました。
【箕山クリニック:doctor】
簡単に分類化してみましたが、spinal(脊柱) alignmentやacetabular-head alignmentなど、それぞれの状態に合わせて総合的にみなければならないということですね。
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