2005年08月 アーカイブ
真のA級戦犯は
最近マスメディアに「低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)」というものが取り上げられるようになった。脳から脊髄までは一つの膜で覆われており、その膜の中には脳脊髄液という液体が満たされていて、その中に脳や脊髄が浮いている状態となっています。この内圧は一定に保たれているのですが、脳脊髄液が漏れると内圧が減少し、それによって頭痛、首や背中の痛み、めまい、吐き気などをきたすというのが、この疾患の状態です。我々、整形外科医でこういった状態をみるのは、腰椎穿刺や腰椎麻酔といって腰の部分から針を刺して、脊髄液を検査のために採取したり、手術で下半身麻酔をかけるために腰から脊髄内に麻酔薬を入れた後、針穴から脊髄液が少量ではあるが漏れ続けてしまったときなどです。このような検査や麻酔をした後に、低髄液圧の症状が出ることは少なくなく、事前に患者さんに起こりうることを必ず説明するうえ、このような状態になっても、安静や十分な水分補給(ときには点滴)で改善するため大きな問題にはなりません。
では、何故最近「低髄液圧症候群」が取り上げられているかというと、交通事故後やその他スポーツなどでも頚部や腰部に衝撃が加わった外傷後に、上記と同じような症状がみられるとのことで、ムチ打ち症や頚椎捻挫としてずっと治療を続けている患者さんのなかには、「低脊髄圧症候群」の方がいるということを提唱している医師達がいるからなのです。医師達といっても、minorityで脳外科医が大半なのであるが、私はこの考えかたを指示する医師かどうかというと、ずばり全く指示しない医師である。彼らによると、検査にて髄液が漏れている部位が分かると、ブラッドパッチ法といって漏洩部分に患者さん自らの血液を注入し、血液で穴を塞ぐ治療を行うと7割の患者さんが良くなるというのだ。7割と偉そうなことを言うが、逆に言うと3割もの患者さんが散々面倒な検査を行って、ブラッドパッチを行っても良くならないのだ。しかも、たとえ低髄液圧だとしても、前述のように安静にしていれば勝手に改善してしまうはずなのだが・・・。こんなのが正しい診断で、正しい治療と言えるのか疑問である。ただ、こういったことを完全否定しているわけではなく、このような仮定的なことをもとにチャレンジしていく医師がいないことには、EBM(Evidence Based Medicine)だけを行っていても医療の発展はないし、治療法もさほど患者さんには侵襲の大きいものではないので、こういったことを提唱するのは悪いことではないだろう。私は、あくまでEBM、つまり根拠に基づいた診療しか行いたくないので、?マークのつくようなことは行わないだけである。ついでに、二点申し上げておく。一点目は、このような仮定的なことを主張する前に、よく患者さんの話しを聞いてよく触るという診察の基本的なことを行い、そこに知識の裏づけが伴えば、大半の不定愁訴の患者さんも症状の原因がつかめるはずである。二点目は、私は過去にレースドクターを行っていて、多くのレーサーを診てきたし今も診ているが、ほとんどすべてのレーサーが大きなクラッシュを経験しているにもかかわらず、誰一人として長々と頚部や頭の症状を訴えないのは何故だろう。もし、大きな交通事故の衝撃にて発生するという「低髄液圧症候群」の概念が正しければ、レーサーはすべて「低髄液圧症候群」のはずなんですがね。
あれこれ言いながらも、先ほども申したように別に完全に否定しているわけではない。何を今回は言いたいかというと、いつものことながらまたまたマスメディアに対しての文句である。このような、Evidenceが確立されていないうえ、保険適応にもなっていない病態と治療法を平気で紹介するべきではない。交通事故後に症状が続いて、わらをもすがる思いの患者さんが、低髄液圧でもないのに「私もそうなのかもと・・・」と余計に不安に駆られるようなことを引き起こす可能性があるのだ。マスメディアの力はとても強いということを自覚し、もっと勉強したうえで、責任をもって紹介すべきである。終戦記念日の今日15日、終戦まで戦争を掻き立てておきながら、GHQが入って来た途端に180度逆のことを書き始めた、お前らこそA級戦犯というべきマスメディアども、今一度反省し、責任もったマスコミを行え。
第10回スポーツ外傷講義:擦過創
スポーツを行っていると、擦り傷は耐えないことでしょう。たかが擦り傷とはいえ、ウェアに擦れて痛かったり、擦れなくても動きのなかで痛かったりし、選手にとっては1日でも早く治したいものだと思います。また、皮膚が欠損するほどの傷だと治るまでに時間がかかり、困る選手も多いと思います。今回は、最近主流になりつつある創傷療法についてですが、あくまで一般的な擦過創に対しての治療法であり、創の状態によっては治療法が異なってきますし、縫合するような切傷とは別であることを理解したうえで参考にしてください。
皮膚の解剖
表層より、1.表皮(毛孔のある部分) 2.真皮(毛のう、汗腺が存在する部分) 3.皮下脂肪
創傷はどのようにして治癒する?
表皮~真皮までの創:①創部の毛孔から表皮細胞が遊走するのと②創周囲の正常皮膚からも表皮細胞が創部に遊走することによって、創部に皮膚が再生されていく。
真皮が失われた創:①創の部分に、肉芽(にくげ)といって毛細血管に富んだ肉のような赤い組織が覆う。②肉芽の表面に周囲の正常皮膚から表皮細胞が遊走していき③最終的には肉芽が固まり欠損部に皮膚様の組織が形成される。
創傷治癒を早めるポイントは?
上記で述べた治癒過程から、大事なことは表皮細胞が遊走しやすい状況を作ることと、肉芽を壊死させないことである。また、創傷を治すために集まってくる細胞成長因子を保持することである。
そのために、創を湿潤した環境にしておくことが大事。
創の治療法
①創面、及び創周囲を大量の水道水で洗浄する。
泥などの異物やケガで死んでしまった不必要な組織が感染のもとになるため、これらをきれいに洗い流すことが大事である。
②湿潤療法の被覆材で創を密封する。
最近では、薬局にも湿潤療法のための創傷被覆材としてフィルムやコロイド、ジェルなどの素材のものが置かれています。
③汚れなければそのままで、創の状態によりますが約1~2週で治癒。
消毒は必要か?
前述のように、創感染のもととなる主なものは異物や壊死組織であり、細菌単独では起きない。
創から除去すべきは細菌ではない。
消毒で創面を無菌に保つことは無理。
消毒液の殺菌力よりも組織障害性のデメリットのほうが大きい。
以上より、消毒は必要ないということになります。
New Entries
ARCHIVES
CALENDAR
診察のご案内
午前 10:00~13:00
午後 16:00~20:00
月曜日12:30~16:30
土・日・祝日は、午前のみ
水曜定休