2005年05月 アーカイブ
ドーピング
アメリカ大リーグ選手OBの暴露本がきっかけで、アメリカのスポーツ界にドーピング問題が重くのしかかっている。常に他の選手の上を行かなければならないというプレッシャーのなか、自分を信じることが出来ないのだろうか。他の選手も使用しているのだから自分も使用しなければ勝つことが出来ないと、ついつい手を出してしまうのだろうか。プロとはいえ弱いものだと思いつつも、我々の想像を絶するプレッシャーの世界で勝ち抜くには大変なのだろうと、少し同情してしまう。
というのも、医師という一科学者として私は、選手に対してよりも、選手を悪の道へと導いてしまう科学者たちに怒りを感じるからである。一言にドーピングといっても、筋肉増強のためのステロイド剤や一気にパフォーマンスを上げるような興奮剤、その他にも輸血して有酸素能を向上させるための血液ドーピングなど様々なドーピング方法がある。ある薬物が、ドーピングとみなされれば、規定のすき間をぬってまた新しい薬剤が出てくる。科学者たちが新しく開発し、それを悪い医師やトレーナーが選手に紹介する。選手たちの弱い心につけ込む「笑うセールスマンの喪黒福造(ちょっと古いですか)」みたいな奴らが、スポーツ界を汚しているのである。
先日、「明日試合があるので、『にんにく注射』をして欲しい」と言うあるスポーツを行っている方が来院された。この「にんにく注射」とやら、どうやらある医師がある大物プロ選手に使用したことで、スポーツ界や芸能界に蔓延したようである。実際に、流行らせた医師に確認したことは無いが、おそらくビタミン剤のタップリ入った点滴を行っているのだろう。そのビタミンの臭いがにんにくっぽいので、注射を受けたものが言い出した俗称が流行ってしまったものと思われる。ビタミン剤なので、ドーピングではない。しかし、サプリメントなどで十分に補給が可能なビタミンを、注射であえて補給する必要があるのだろうか。飲んで補給するより注射したほうが効く感じがするからとか、選手が安心するからといった理由で、選手の希望通りにホイホイと行ってあげる必要があるのだろうか。時には必要なときもあるであろう。もしかすると、これを流行らせてしまった医師も、初めは選手が嘔吐や下痢で栄養摂取不十分だが、どうしても今日の試合に出してあげたい、といったような状況で使用したのかもしれない。しかし、医学的必要性のないときに、選手の言いなりで行ったり、自己利益のために行う医師に、スポーツドクターという言葉を名乗って欲しくはないものだ。
この日、「にんにく注射」をご希望の方には、その内容についてきちんとご説明し、「私は、利益のためにスポーツクリニックを行っているのでは無い。スポーツを行っている人々をきちんとケアしたい、また流行ものに騙されて間違った方向に行かないようにしてあげたい、という思いで行っています。頑固者で申し訳ないが、こう見えても真面目者なので必要性のないものは行いません。」と丁重にお断りした。この方が、「何だこの頑固者め」と、わざわざ他のクリニックへ行って「にんにく注射」をうってないことを願う。
第8回スポーツ外傷講義:前十字靭帯損傷の予防
今回は、箕山クリニックのアスレティックトレーナー鈴木による外傷講義です。
思いを起こせば(まだそんなに期間は経っていませんが)スポーツ外傷講義の記念すべき第1回目のテーマは前十字靭帯損傷でした。という訳でトレーナー担当コラムの初回は前十字靭帯損傷の予防について書いてみたいと思います。
前十字靭帯損傷の原因を分類すると、コンタクト型、ノンコンタクト型に分けられます。自分ではどうしようもなかったコンタクトプレーによるものもありますが、ノンコンタクトでの受傷が45%ほどの割合を占めるという報告があり、予防の余地は十分にあると考えられます。ドクターが紹介してくれたようにこの靭帯の損傷と太ももの裏の筋力は密接な関わりがあり、太ももの裏の筋力をつけておくことは非常に大切なことです。しかしいくら太ももの裏の筋力があってもその部位の筋肉が使いづらい状況下に置かれていたら予防としてはあまり効果を発揮しません。ノンコンタクトの受傷状況を調査してみると、ニーイントゥーアウト(膝が内側を向き、つま先が外を向いた状態)や体幹が直立位の状態での受傷が多いようです。つまりはこの状態にならないようにトレーニングをしていくと予防のプログラムが出来上がるわけです。
ニーイントゥーアウトや体幹が直立位になりやすい要因はいくつかあります。足首や太ももの後ろの筋肉の硬さ、筋力の弱さなどが挙げられます。女性は男性に比べて筋力が弱く、体の形態的特徴・女性ホルモンの影響などで損傷のリスクは男性に比べて高いのでより注意が必要です。スクワットなどの誤ったトレーニングフォームも上記のような受傷機転に導いてしまいます。その他にもたくさんの要因がありますが、以下にいくつか予防としてやっておきたいことを挙げてみましょう。
まず、足首や太ももの後ろの筋肉の柔軟性を高めておくことが必要です。足首の柔軟性については一般的なふくらはぎのストレッチングを行ないますが、つま先が外を向かないように行ないます。筋力強化と重心のコントロールの練習としてはスクワットを行ないますが、骨盤の前傾をしっかり保ってつま先の真上に膝・肩がくるくらいにし、つま先と膝は共に正面を向くように行ないます。
海外の学会では予防のプログラムとしていくつかの方法が提案されています。内容としては固有受容器を刺激するトレーニング(平たく言えばバランスのトレーニング)、プライオメトリックトレーニング(主にジャンプ動作のトレーニング)を進めていくなどです。ジャンプの着地時に膝を深く曲げて着地する、減速時には3歩くらいのステップを踏んで減速するなどの動作を反復して体に染み込ませたりするプログラムも紹介されています。詳しく知りたい方はAAOS発刊のPrevention of Noncontact ACL Injuriesをご参照ください。
今回は予防の概要について書きましたが、限られた紙面上で全てを的確に表現するのは不可能です。また予防できるケガは前十字靭帯だけでなく他にも数限りなくあります。それぞれのケガの発生要因分析していけば予防の方法は見えてきます。トレーニングの現場では“似て非なるもの”がよく見受けられます。上記のスクワットもその一つです。“何だスクワットか?”そう思うかもしれませんが、実際にはこの基本的なトレーニングがしっかりできない人は思いのほか多くいます。予防のつもりで行なっているトレーニングが逆にケガを招く・・・。そのようなことが皆さんに起こらないよう、施設においてもグランドやコートなどの現場においても、『アスレティック』トレーナーのいる環境でトレーニングを進めていくことをお勧めします。
医学教育
模擬患者(Simulated PatientまたはStandardized Patient;略称SP)というのをご存知でしょうか。医学生に患者さんとのコミュニケーションのとり方、問診の仕方、診察方法、治療の説明の仕方などを学ばせるために、患者さん役を行ってくれる人を言い、専門家が作った台本を覚えていて、「のどが痛い」、「頭痛がする」などの症状を訴え医学生の質問に応じて演技で答えて行ってくれるのです。
患者さんの訴えからどれだけの病名が頭に浮かぶか、きちんとした知識があることが大前提であるが、第6回スポーツ外傷講義でも触れたように、診断の基本はまず聞くということであり、問診によって頭に浮かんだ疾患をうまく絞り込んでいけば、おおかたの診断はつく。そういった意味で、診察の練習をするにはSPさんの存在は非常に助かると思う。我々が医学生の頃には、こういった教育が無かったが、米国ではこのSPさんによる教育が徹底して行われているようで、最近日本でも積極的に取り入れている大学があるようだ。
この教育、とてもいいことだと思うが、お偉いさん方が必死になって広めようとしている目的がどうも外れているような気がする。上記のような診断学の勉強のためというより、近年医師の信頼が薄れていたりドクターハラスメントの問題がおきたりするのは、医師のコミュニケーション能力が不足しているからだと、コミュニケーションのとり方を勉強しようというのが主な目的となってしまっている。あれっ?って思いませんか?コミュニケーションのとり方って、教わるものなのでしょうか?自らの社会経験で身につけるものでは?それに、コミュニケーションがきちんと取れる人間かどうかって、まずは入学の際に学力だけじゃなく面接で判断しておけって思いますよね。お勉強ばかりで、世間知らずのままお医者様になった人が、同じく世間知らずでお医者様になろうとしている学生に考えてあげることは、やはり世間知らずなことなのだ。聞くところによると、SPさんとお勉強した後には、きちんとSPさんから「あの時の話し方は失礼な言い方だった」とか「目線がどう・・・」とかダメ出しをしてもらうらしい。つまり、患者さんとの対話も、接客サービスのようにマニュアル化したいのである。1対1の信頼関係で成り立つはずの医療って、こんなことなんでしょうか。何か、おかしい。
私だったら、学生にどうするか。いろんなアルバイト、特にサービス業を経験してこいというだろう。社会の中で医学生以外のいろんな人と出会い、バイトで接客や人との接し方を学ぶ。わずかな時給ながらも、稼ぎながらこんな立派な経験ができるいい方法は他にない。こんなことは、人と接する職業に就こうとしているのであれば、自ら考えて行うべきことだが、そんなプロ意識の高い医学生は、日本全国ほぼいないに等しいだろう。医学部の授業や勉強は、他の学部と違って忙しいからそんなことはできない?いいえ、私は、ウェイター、厨房、工場、引越しetc、すべてこなしましたよ。
せっかく、医学教育に貢献してくださるSPさんに、本来自分で身につけるべきことまで医学生に教育してもらおうとしているお偉いさん方、キャバクラでホステスさんにチヤホヤされて喜んでるだけでなく(本当はキャバ嬢のほうが人生経験は一枚も二枚も上手で内心バカにされているのに)、あなた方もせっかくならそこで接客サービスを学んできて下さい。
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