2005年02月 アーカイブ

愛国心、愛社精神

国会では、いつものようにくだらない批判ごっこが続いているが、今国会で教育基本法改正案の提出が見送られた。「愛国心」の扱いで自民党、公明党の与党間で調整がつかなかったからだ。自民党が「国を愛する心」の明記を主張する一方、公明党が戦前のような国家主義を復活させぬよう「愛する」ではなく「国を大切にする」とするべきと、お互い一歩も引かないためである。それにしても、実にくだらない論争だ。愛国心を持たせたいのなら、こんな表現の仕方うんぬんよりも、どうして日本には愛国心のない者が多いのか原因から考えたほうがいい。国を背負ってたつ人達が、物事を論理的に考えられないからいつも国の政策はその場しのぎで、また何年後かには困ってしまうことの繰り返しなのだ。

本来、愛国心とは自然と生じるものと思うが、わざわざ教育のなかに盛り込まなければならないとは、特に若い世代においてだと思うが国民の愛国心がかなり薄れてきているらしい。若者もワールドカップやオリンピックにおいて、「ニッポン!ニッポン!」と応援し「君が代」を歌うではないか、立派に愛国心があるではないかという意見もあるだろう。しかし、これは本当の愛国心なのだろうか。相手のために何かをしてあげたいという男と女の愛と同じで、国のために何か役に立つことをしたいというのが本当の愛国心ではないだろうか。スポーツの国対抗で日本を応援するのは一種の愛国心かもしれないが、厳密には単なる対抗心みたいなものに過ぎないと思う。先日テレビで現在の中国の教育現場が放映されていたが、日本が過去にどれだけ中国に対しひどいことを行ったかという歴史教育を子供たちに行い、日本に対する憎悪感と中国への愛国心を養っているのだという。その結果が、昨年中国で開催されたサッカーアジアカップでの日本チームに対するブーイングなのである。実にみっともない。日本の多額なODAで発展しておきながら、中国はこのような教育しかできないのである。なんと低レベルな国なのだろう。これが愛国心と呼べるのだろうか、明らかに答えはNOだ。

90年代前半の調査で少し古いが面白いデータがある。10代後半から20代の若者層においての調査だが、個人と国家の関係について「個人が幸福になってはじめて国全体がよくなる」への賛意が41%、「国がよくなってはじめて個人が幸福になる」への賛意は18%で、前者の個人優先は欧米6カ国より高率であり、後者の国家優先はオランダに次ぐ低率であったという。これが戦後の高度成長期の若者、つまり現在高齢の方々への調査であれば全く逆の結果が出たのではないだろうか。戦後焼け野原となった日本を、再び世界に誇れる国にしよう、戦争に負けたがせめて経済で再び勝つのだと、今の経済大国日本を作り上げた世代の人達は、きっと国を愛し、国のために働いたのではないだろうか。そしてそこには、彼ら国民、社員を愛する企業があり、それぞれが会社のために働くといった愛社精神があったのである。ところが今はどうだろう。会社のために働き、国を豊かにすればと働いた結果、国は豊かになってしまい国自体が次なる目標を失っている。このような豊かすぎる環境の中、個人は会社や国といった公に対して考えることも無く、自分だけのために、自分さえ満足のいくように人生を送ればと個人の権利のみを訴えることになってしまっているのである。つい先日、会社の研究費で開発したにもかかわらず、自分の特許で会社が利益を得たのだからと莫大な報酬を要求した訴訟はこの良い例であろう。何名かのプロ野球選手が、契約条件を無視して米メジャーリーグに行きたいと駄々をこねているのも同じである。公を考えない個人が増えてきているなんとも寂しい世の中だが、個人ばかりを責めることは出来ない。2月1日の朝日新聞の夕刊にパート労働者が増加している記事が出ていたが、企業が経営のために正社員を減らしパートを増やしてしまっているような環境では、会社のためにと愛社精神を持って働く者はいないだろう。企業も国も、個人、国民を愛さなければ、個人の愛社精神、愛国心は生まれないのだ。

個人の公に対する責任感がなくなっている現在、どうすれば愛社精神、愛国心は生まれるのだろう。それは、個人が個を犠牲にしてまでも公に役に立ちたいという魅力を公が持たなければならない。企業は会社そのものの魅力を出さなければならないし、国は日本がなんてすばらしい文化、技術を持っているのかということをもっと国民に伝えるべきである。中山文科相の歴史教科書について「自虐的な教科書がいっぱいある。日本が悪いことばかりしたという教科書がある。」との発言が問題になったが、私個人的には同感である。悪いことばかりでなく、もっと良いことも教育していかなければ、国を愛する者は増えないであろう。

世の中の流れに敢えて逆らいたいひねくれ者の私は、箕山クリニックの職員をほとんど正社員にした。それは、個を主張するものが多い今の世の中で、組織内で公に対し責任を持って仕事の出来るエリートを育てたかったからである。そして、選手たちにこの上ない環境を備えたこのスポーツクリニックの社員であることを誇りに思い、箕山クリニックのために働いて欲しいからである。私はどれだけ社員から嫌われてもいい、箕山クリニック自体を社員みんなが愛してくれれば。その分、私は社員を愛しますから。ってこれを読んだ瞬間、社員は気持ち悪くなったかな(笑)。

第5回スポーツ外傷講義:肩関節脱臼

はじめに
スポーツでの肩関節脱臼はコンタクトスポーツにおいて多くみられます。筋肉がしっかりしている若年スポーツ選手でも肩関節脱臼が起きるということは、余程の外力が加わり関節周囲の制御組織をかなり損傷するのか、初回脱臼の年齢が若いほど再脱臼率が高いというデータが出ています。何度も脱臼や亜脱臼を繰り返す反復性となることも少なくなく、反復性となってしまった場合には手術的治療に至ってしまうことが多いいため、初回受傷時に適切なスポーツドクターの指示通りに治療を行ってほしいと思います。

前方or後方?
肩関節脱臼の98%は前方への脱臼

肩がどのような位置だと脱臼は起きる?
肩関節が、外旋(手のひらが外側に向いた状態)、外転(横に上げていく状態)の位置にあるときには、上腕骨(腕の骨)の頭(肩甲骨とともに肩関節を形成している部分)が前方に移動しようとしている状態で、前方にはかなりの緊張が加わっています。この状態で外力が加わると、前方に脱臼してしまいます。

整復方法
ヒポクラテス法やコヘル法など様々な方法がありますが、最も肩の組織を痛めずまた選手に苦痛を与えずに整復する方法を伝授いたします。
ゼロポジションという言葉をご存知でしょうか?肩甲骨と上腕骨のラインが最も一致したポジションで、この位置では肩関節を安定させている大事な筋肉群である「腱板」が前方から後方まですべて均等に作動し、腱板の機能である上腕骨頭を肩甲骨に引き寄せる力が最適に働いています。肩甲骨は身体の真横のラインより30度前方に傾いて胸郭に付いていますので、腕を真横から前方30度(スカプラプレーンといいます)で約150度外転させた肩の位置がゼロポジションになります。さて、整復方法ですが、脱臼を起こした選手を仰向けに寝させとにかく完全にリラックスさせた状態で肩に力が入らないようにします。この状態でしっかりと脱臼したほうの腕を保持し、リラックスを継続させながらゆっくりとゼロポジションまで持っていくと、腱板の上腕骨頭を引き寄せる機能で自然に脱臼は整復されます。この方法では、無理な外力を加えずに整復することができるので、他の組織を傷めたり選手に苦痛を与えることもありません。
また、長時間整復されずにいると、腋窩(えきか)神経といって脇の部分を通過する神経を圧迫し麻痺をきたすことがあるので注意してください。

固定法と固定期間
前述のように、初回脱臼の年齢が若いほど再脱臼率は高く、初回脱臼時の年齢が20歳以下では90%以上が再脱臼を起こすと言われています。そのためにも、初回時にはきちんとした固定が必要です。
固定位ですが、脱臼にて損傷されている前方の組織に緊張を加えないよう内旋位(手のひら側を外に向けずに身体側へ閉じた位置)を保つために、肘を90度に曲げて腕を吊った状態で身体にくっつけた体幹固定の状態が一般的です。
固定期間には3週から6週と文献によってばらつきはありますが、6週固定にて再脱臼率は減少したとの報告があり、若年者ではきちんと6週固定するのが望ましいでしょう。
固定位に関しての新しい報告では、内旋位固定では3週でも6週でも再脱臼率が変わらなかったと述べている者もいます。その著者によると一般的になっている内旋位では、実は前方組織が脱臼後の出血などで適切な緊張が加わらず、外旋位のほうが前方の組織に適度の緊張が加わるので、外旋位のほうが脱臼後の固定位として良いと報告しています。実際に外旋位で固定したことによって再脱臼率が減少したと述べています。
この固定位は、内旋の体幹固定と同様に肘を90度に曲げて腕を吊った状態で、内旋とは逆に手のひらを外側に向けた状態で、身体より手が離れる外側の位置での固定となります。したがって、この位置での固定は日常生活上不便であり、臨床結果で証明されてはいるもののなかなか普及しないのではないかと思われます。

固定後のリハビリ
固定によって、前方の組織修復を行うだけでなく、再脱臼を防ぐには上腕骨頭を肩甲骨側に引き寄せる腱板の機能回復がとても重要になってきます。これと同時に肩甲骨の動きや安定性も回復させ、肩甲―上腕の協調運動をきちんと作って行かなければなりません。組織の損傷が軽度であっても、この機能回復がきちんと行えないと反復性になりかねないため、スポーツ外傷のリハビリに通達した理学療法士のいる病院やスポーツクリニックでのリハビリをお勧めいたします。